近頃流行の水石道楽とは違います、水石だの名石などというのは天然石で形の面白いものや珍しい模様のあるものなどを眺めて楽しむ趣味、または天然石を材料にしていろいろ面白い形態を作りだして悦に入ろうという趣向で、これは生け花などと同じく一種の優雅な造形芸術でありましょう。
 処が造石道楽というのはこれと違ってまだ世の中のどこにもない新らしい石そのものを造り出して楽しむいわば造質芸術ともいうべきもので、つまり鉱物化学上のお遊びのことです。 そこで私のこれまでに作ったいろいろな新石のうちから、やや変ったものを三種選んで新石三幅対として臆面もなくここに御披露に及びましょう。

 実は昨年十一月東京で催された益富博士の祝賀会の席上で長島、益富、桜井のお三人さんは本邦鉱物界における三幅対とも申すべき貴重な宝物だとたたえたまではよかったが、そのような軸物の絵柄を何にたとえたらよいかで行き詰り、差当り蓬莱山ということでご勘弁を願った次第でした。
 丁度その頃試作中であった石が日焼けする石(感光変色石)でありましたが、その日のお目出度い喜びの心を記念する意味で取りあえずそれに宝来石、Horai-stone、と名付けました。
 これは一見なんの変哲もない平凡な顔付をした象牙色の石ですが、日光に当てますと直射3分間位で、また曇った日とか、朝夕の弱い光線のときは数十分もかかりますが、とにかく日光で紫雲色に変ります、第1図および第2図はこの石の変色の性能を示したものです。 このように暗紫色に変ったものを暗処に置きますと数十分乃至十数時間後にまた元の象牙色に戻ります。 現在ではこの露光・暗裡という周辺条件を屡々繰返えすと次第にこの可逆性が損われてくる欠点がありますので、この可逆性をいつまでも失はないようなものにしようと続いて目下研究中であります。

 このように光線によって可逆的変色を呈する天然鉱物にハクマナイト、Hackmanite,と称する鉱物があります。 しかしこれは遠紫外線でないと変色しませんし、その可逆性もそれの化学組成から推察して、どうも永久に保持されるとは考えられません。 とにかくしかし今度造りましたこの宝来石はこの性能だけから見れば一種の人工ハクマナイト類似鉱物といえましょう。

 そこでこの宝来石の他にもう二つ光輪石、Halo-stone、と紅葉石、Maple-stone、とを取り上げることにしました。 第3図および第4図がそれぞれ光輪石と紅葉石との写真であります。

宝来石・紅葉石・光輪石
写真の解説
左上図-宝来石、黒色の遮光テープを貼って日光に当てる状態、この状態で直射日光に4分間当てた。
右上図-宝来石、露光後にテープを除いた状態、石は暗紫色になったが、テープの跡はもとのままの象牙色。
左下図-光輪石、右下図-紅葉石。
 光輪石の方は不均一に半透明な飴色の石基中に大さが直径5−15mm位で外皮が桃色の目玉(球塊)を沢山包んでおる奇妙な石です。 この球塊の断面がここにいう光輪(仏像などの背にその頭を中心に取付けてある後光の象徴)で、その構造は例えば径15ミリのものでは中心に径2ミリ程の褐色の結晶核があり、それを囲んで淡黄色の部分があり更にその周囲に暗紫色の厚さ3ミリ程の層があって最外側が厚さ1ミリ程度の紅色層で包まれております、球塊の断面ではこれがピンク色の輪状を呈し、全体として層状輪を形成しております。
 この石は全体としてこのような目玉を沢山に含んでおりますが、そのような目玉の断面の外観から光輪石と名付けました。 英名のHaloの意味は放射性鉱物の微片を含むある種の鉱物に認められる顕微鏡的ないわゆる色暈の意味ではありません。

 次に紅葉石の方は暗黄緑色の緻密な石基中に径1−3mm位の楓の葉に似た形の朱赤色の結晶が分散しておるもので、部分によってはこのような結晶が沢山に群集して秋の紅葉山のような形状を呈しております。 この楓葉の一つ一つはそれぞれ羽毛状に発達した樹枝状結晶集合が放射状に成長したものです。 これもやや変った石ですから蓬莱山の仙人に聞いても恐らくご存じないだろうと思はれます。

 以上の三石については鉱物専門のお方からはそんなくだらないものとお叱りを受けること必定でしょうが、商売人の方はそれは鉱物学上なんという鉱物か、比重はいくらで硬度は何程かと、ひとかどの鉱物学者のような質問をあびせるにきまっています。 そうなるとこれは輝石か角閃石のたぐいですとお答えするより外ないのです。
 尤もあの高価なエメラルドもヒスイもトーパツもみんな輝石・角閃石の一味といえますぞと付け加えたくもなります。 ではこの石のお値段はとくるでしょうが、一体宝石の値段などというものは第一にその希少価値から来るものらしく、昨今頻繁に催される宝石展覧会などで見ますとこの点がハッキリ窺はれます。 めったに手に入らないようなものだとダイヤモンドよりも高価になっております。

 先頃国内各地で催されたセイロン宝石フェアに陳列されたものを見ますと、486カラット(約97g)のサファイアが2億6千万円、それの10分の1の大さの僅に48カラット(9.6g)のサファイアが質が良いとの理由でなんと1億5百万円。 それからアレキサンドライトが同じく48カラットのもので4,200万円はまだよいとしてアクアマリン271カラット(約54g)のもの1,400万円となっておりました。 また別の展覧会場では2貫3百匁(8.6kg)の純金の茶釜が展示されており、その細工も実に精巧を極めた立派な工芸品であるがその値段が僅に1,300万円也、これはまた上記の億万円台の小さな宝石に較べてなんともまあ安価なものでしょう。 はてさてと化学者は考えざると得ません。

 こうなると目下私の手許以外に地表のどこを探しても手にはいらない前記新石三幅対の値段はさて如何程とつけたものでしょう?、そんな人間の造ったものなんかただの石ころ以下だという訳で、海岸などでただで拾えるうす汚い石ころなんかが珍重される現世です。 そうするとこの新石などは趙氏連城の玉と同様、遠い未来になって始めて宝石価値がでてくることでしょう。 誰氏等のいう通り「世の中どこか狂てる」、芸術の真髄は美しいものを美しいとするにある、神秘なものを神秘とするにある、あゝ現世の宝石よ!! 結局われら庶民はそれを夢の宝石と呼びたい(終)。
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